行く末トーキー

はじめからはじめよ

えいらぶ黎明をこねくり回す

公開から3日間が怒涛過ぎてもうなんか記憶が曖昧になりつつある。現時点で通常1回+4DX1回鑑賞済です。パンフ・オフィシャルガイド・フォトブック・シナリオブックは入手済だけど軽くしか目を通してない。小説版はまだ手元にない。

※ 絶賛ではないし愚痴も混じります。まとまりもない。まさに「こねくり回している」記事です。

なんかな〜〜〜〜〜〜〜!!!!って大の字になってる。

こうね、やろうとしてることは分かる。こういう話にしたかったんだろうなってのは伝わってくる。でも時間とかが圧倒的に足りず、何もかもが中途半端なままなんとな〜〜〜く終わったって感じ。継承が通勤ラッシュの東西線(乗車率200%越え)だとしたら、黎明は休日昼下がりの鈍行列車。それなりに混んではいるんだけどみちみちでもなく、ドアのあたりに固まる乗客がいて乗車率が下がっている。ちょくちょく止まって人の出入りも多い。そんなイメージ。

すごく予算がかかってるし、とうらぶファンのことを大切に考えてくれたことも分かる。そこはすごく嬉しい。ありがとうって思う。でも、だからこそ、何もかもが中途半端になった印象。多少のファンは振り落としてでもこれを表現したいんだ!!!っていう熱量はなかった。誰もを救おうとして誰にも届かない。無害なゆえに刺さらない。言葉を選ばずに言うと「凡作」だなと思った。刀剣男士のかっこいいところを描きたかったのか、審神者が励起させる「おもい」に焦点を合わせたかったのか。二兎を追う者はなんとやら。

内容の話をしよう。

私が見た限り、黎明はそのサブタイ通り「審神者という存在の始まり」を描こうとした作品、だと感じた。琴音の能力は明らかに審神者へと繋がることを意識したものだし、ラストで長義も「すべての人間は審神者となる可能性を秘めている」と口にするし。で、刀剣男士は「審神者になりうるヒト」に「(2012年時点はまだ曖昧な)モノの声を伝える」役割。刀剣男士とヒトは「他者からの思い(念い)を受けて存在している」という意味では同じと言える、みたい。

でもその審神者の卵的存在である琴音が「あなたの中の健くんの声を聞いて!」って伊吹に呼びかけた結果が「お兄ちゃんがいて僕は幸せだったよ」はちょっと違うんじゃないか〜〜〜〜???!!!となる。ここが一番の引っかかりポイント。

健が本当にそう口にしたんならともかく、あの描写だと「伊吹が想像した健の心情」に取れる。もしかしたら琴音の力でボールに込められた健の思いが伊吹に届いたのかもしれないけど、それでも「幸せだったよ」はなくない? 健がボールを持って外に出た時は、ただ「お兄ちゃんが落ち着くまで待っていよう」とか「ちょっと居心地が悪いな」とか「ここには居たくないな」とか、そのくらいの気持ちだったんじゃないかと。さすがに自分から車にぶつかりに行ったとは……思えない……思いたくない…………。

こんな風に「あの時あの人はこう思ってたんじゃないか」って考えるのは、個人の視点では立ち直るきっかけにはなるけど、歴史を紡ぐという意味では最悪の一手ではないかな。「あの時あの人はこう思ってたんじゃないか」は、使いようによっては「こう思ってたことにしたいからあの人達を排除しよう」にもできる。死人に口なし。現に、みんな死んでしまえば「あれは鬼だったのだ」と言っても反論されない(から楽でいい)よねってのが道長たちの理屈であって、その理屈に則って一方的に殺されたのが酒呑童子たちで。酒呑童子は本来の生を忘れられ、別の事実で上書きされることを恨んで呪いをかけたのに、反撃の契機にこの理屈を使っていいのか?って感じで解釈がまとまらない。

じゃあどうしたらいいかは分からんのだが……。「私は彩に助かってほしい」みたいな身勝手な理由の方が琴音自身の言動に説得力は出る。でもそれは刀剣乱舞審神者と何の関係もないのでナシ。琴音の変化が断続的で今ひとつ掴みきれない。「私たちは常に自分以外の念いに突き動かされて生きているって分かったんだ」と「あなたの中の健くんの声を聞いて」の間に3ステップくらい理屈の展開が必要では? 健が伊吹に寄せた念いを無視しないでってことか? でもそれで立ち止まれる段階なのかこれ? 「そうは言っても現実問題、健はいないからどうでもいい」とか、さらに進んで「健と一緒にいたいから俺はもう死んでしまおう」ってなったら終わりだよね。

山姥切国広の「過去には戻れない。歴史は変えられない。だが、それでも生きるのがお前たち人間の役割だろ」がもうちょっと重く効いてくるとよかったんじゃない……かな……? モノである刀剣男士は過去を守ることはできても未来を作ることはできない。未来を作るのはヒトの役目。だから健の死を乗り越えて前に進んでくれ〜とか? お前がいなくなったら健の念いも消えてしまうんだぞ〜とか? いやしかし……難しいなこれ…………。これだって「どうでもいい」と酒呑童子に身体を明け渡したら終わりだし。

というか結局伊吹の身体が念いに耐えきれず時代ごと爆散(多分)しそうになってるし、なんなんだこれは。念いがすべてなくなったら「歴史や運命への恨み」もなくなって歴史修正主義者や時間遡行軍もなくなるんじゃないかとか、ぽこぽこと疑問が浮いては消える。星太刀さんは対消滅エンドOK派? まどマギいけるクチ?

良い話っぽくまとまってはいるものの、よく考えるとなんかおかしくない?って躓いてしまう。多少のアラは圧し切っていくぜ!ってテンポ感ならともかく、このシーンは割とゆっくり推移するので「あれ?」って立ち止まる余裕ができてしまうんだよね。複数回見て内容を覚えた状態で「あれ?」ならともかく、私は初見から躓いているので……。

歴史を守るって行いは、同時代を生きている人たちには本質的に成し得ないことなんだろうな。伊吹のように「なんで見捨てられたんだ」と嘆く人に対して「それでも歴史は歴史なのだ」と非情にも見える行いを成さねばならない。「『止まない雨はない』より先にその傘をくれよ*1」と伸ばされた手に傘を渡さずにいられるかどうか。その手を振り払わなければならない使命と、そうは言っても目の前の苦しみをどうにかしたい、傘を渡したいと抗う願いとの板挟みが刀剣男士の感情を描くときにキーとなる。これは審神者にも共通する苦悩なのかもしれない。未来という一段上から来た存在でさえ悩みながら進んでいるのに、まさに渦中にいる人物がそんな簡単に乗り越えられるものなのか?

やっぱり「幸せだったよ」はあまりにもご都合主義というか…………琴音が伊吹を救うのは無理筋だったのでは…………? なんだろうな〜〜〜〜〜なんか、うーーーーん……。「親しい存在の死を克服する」と「歴史=念いを寄せて寄せられてきた歩みを守る」の2つって両立しうるテーマなのか?

よきポイントはいっぱいあるんだけど、根底を支えるべきストーリーがうまく飲み込めないので手放しで良かったとも言い難い。枝葉や表面がどんなに綺麗でも、背骨が曲がってたら歪んで見える。関連書籍読んでこねくり回すしかないかぁ。

あ、山姥切国広の靴下が白かったのは1億点です!!!!!!!!!!!!!!今回も輝いてた!!!!!!!!

公開後追記

伊吹と健のバックボーンを差し替えると行ける気がしてきた。

健が病弱or大病で長く床に臥せっていて、伊吹は健を元気づけるためにあれこれ手を尽くすも健は幼くして亡くなってしまう。伊吹は「なぜ弟がこんな目に」「自分がもっと頑張っていれば」と暗黒面に落ちる。しかし琴音の呼びかけによって、かつて伊吹が健に渡したおもちゃ(ボールでもそれ以外でも)に込められた念いが伊吹に届く。健は自分の運命も、もちろん伊吹も恨んでおらず、ただ純粋に兄を慕い感謝していた。その念いを無駄にしないために伊吹は酒呑童子から自分の身体の主導権を奪い返す……的な。ありがちだけど、これなら「モノに込められた念い」が果たす役割もくっきり明確になりそう。

あーでもそれだと伊吹の表面上の行動原理(健の心を取り戻す)が若干弱くなるかな。なんらかの理由で親がいなくて兄弟2人で頑張ってて、病気でどんどん塞いでいく弟を見ていられなくて、そこに星太刀が付け入って……とか? 入院する金がない理由を差し込めたら病院でなくアパートにいても違和感はないか。

伊吹(と健)と琴音、すごく大事なのにすごくあっさりとしか描かれないからとてももったいない。

*1:KICK BACK / 米津玄師