行く末トーキー

はじめからはじめよ

所作の音 ― 第2回 狂言公演「能楽男師〜鴈礫・附子〜」

無事に! 上演されました!!!

チケットがご用意されることは当たり前じゃないけど、無事上演されることも当たり前じゃないんだと実感する日々です。

鑑賞の記録

  • タイトル:第2回 狂言公演「能楽男師〜鴈礫・附子〜」
  • 日時:2020年3月15日 15時/19時
  • 場所:宝生能楽堂

払い戻し対応してたけど昼夜ともほぼ満員で、そして全員がマスクしてるので客席が壮観だった。ちょっと怖い。

宝生能楽堂について

異世界

座席はこんな並び。

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雰囲気は「『右』がない明治座」。正面・中正面・脇正面の3カテゴリがあって、順々にメイン舞台から(角度的に)遠ざかっていく。脇正面が明治座でいうところの「左」。つっても橋掛かり(花道みたいなもの)が近いからメリットも感じなくはないってところだった。

駅から近いし、お手洗いも十分あったし、不便だなって思ったところはなかったです。

構成とか

それぞれの作品を上演した後にちょっとしたトークコーナーがある。演目とトークで40分ないくらい。間に休憩20分。普段よく見ている舞台に比べるとあっさり終わるけど、初めて触れるジャンルだからこのくらいがちょうどよかった。

雑感

中止になったら悲しくて暴れてしまう(倫理観の欠如)から予習もなんもせずに行ったんだけど、初めてでも話の筋は分かる。細かな言い回しは聞き落とす。でも表情や仕草で「こんなシーンなんだな」て補完できるし、笑いどころも分かるし、十分楽しかったです。

ちょっとウーンってなったのは、トークコーナーになると声が半分くらい届かないとこかなぁ。舞台発声がすごいのか、マイク(ピンマイクなし)の調整がうまく行っていないのか。特にBGMがかかるとほとんど聞こえない。配信も買ってあるからそれで聞き取れたらいいなぁ。

なんかね、普段見る舞台と似てるようで全然違った。まず始まっても客席は明るいまま。照明は一切変わらない。音響もなし。空調も切ってるのか、すごく静かだった。トークコーナーで荒牧さんが「静寂の音がする」って言ってたけどまさにそれ。いっそ異様だった。摺り足の音とか、衣擦れとか、膝をつく音なんかも全部分かる。およそ500人が足音に耳を澄ませる空間。あれは現地で見た価値があった。

鴈礫(がんつぶて)

大名(荒牧)が鴈を射殺そうとしたところへ、道通り(健人)が石を投げて殺して持ち去ろうとする。大名は「自分が射た鴈だ」と主張して譲らず、道通りは仲裁人(岩崎)に助けを求める。仲裁人は「鴈を元いたところに戻し、大名が射ることができれば、鴈は大名のものとしよう」と決め、道通りの合意を得る。しかし大名はまともに弓を射ることができず、結局鴈は道通りが持って帰りました、って話。

このねぇ、まともに弓を射ることができない大名、っていう描写がかわいい。最初すごく厳かな雰囲気で出てきたのに、いざ鴈を射ようってなった時に、まず矢の向きを間違える(矢羽をつがえようとする)からの「ここからは遠すぎる」「ここでは狙いにくい」という屁理屈。冒頭の台詞が聞き取れなくても、大名が狩りをしに来たことと、腕前が今ひとつなことがすぐに分かる。

からの道通りカットイン。忙しい忙しいって言いながら出てきたと思ったら「おやあそこに鴈がいるぞ」「石を投げてみよう」「ヤッコラセ(HIT)」「やあ当たった、持ち帰ろう」までノンストップ。ちなみに石が当たった瞬間の大名の顔もかわいい。はぁ?????ってなってる。

狂言ってもっとこう堅苦しく見るものかと思ってたけど、かわいいポイントが散りばめられててクスクス笑いながら見てた。仲裁人が「あの腕前では(大名の矢は鴈に)当たりますまい」って言うところとか、普通に「ですよねw」ってなる。言い回しは難しいけど、分かってみればショートコントみたいなものだった。

トークコーナーは昼夜ともネタは一緒だったかな。ここで「着物の横縞の幅が身分の高さを表している」という豆知識を教わって、荒牧さんが健人さんを見て「めっちゃ身分低いじゃん」とコメントしてた。今は平等だけどね、というフォローつき。

附子(ぶす)

留守番を頼まれた太郎冠者(健人)と次郎冠者(荒牧)。主人(上堂地)は「これは猛毒だからよく見張っておくように」と入れ物を残して出て行った。最初は猛毒を怖がる2人だったけれど、次第に興味が湧いてきて、協力して入れ物を開けてしまう。なんと中身は毒ではなく砂糖だった! おいしいおいしいと砂糖を食べきった2人。大事なものを壊してお詫びに毒を食べようとしたという話をでっち上げるために掛け軸やら茶碗やらを破壊し、やっぱり主人には怒られましたって話。

これもねぇ……2人がかわいいんですよ。多分かなり幼い設定なのかな。太郎冠者が「食べてみよう」と提案した後のやりとりとか、次郎冠者の「死んじゃったーーーーーーーーーーー!!!!!」*1とか、2人で茶碗を割った後の「数が増えた」「ばらばらになった」「「あっはっはっはっは」」とか、アホかわいい。ベストかわいい次郎冠者は、太郎冠者の口車に乗って掛け軸を破いた後、茶碗を割るように言われた時の「嫌じゃ」。そして「じゃあ2人でやろう」と持ちかけられて「それがよかろ」の笑顔。

あと夜公演だけ、なぜか茶碗の割れた音を表現してた。あれは……なんだったんだろう……?

昼のトークコーナーの終盤で、演出の善竹さんが出てくる時は素でかわいかったし笑った。揚幕(演者が出てくるところ)から来ると思ってそっちを見て拍手しているのに、まさかの切戸口(裏方が出てくるところ)。え、そっち?!って客席も含めてみんなびっくりした。ちなみに夜は揚幕から来てくれました。

いやぁ楽しかった。やっぱり芝居は生で見てこそだよ。早いとここの異常事態が収まりますように。

*1:実際の台詞は別だけど意味合いはこれで正しい