行く末トーキー

はじめからはじめよ

支配者/演出家 ― 舞台「憂国のモリアーティ」

19時開演で3時間はさすがにキツいな……せめて18:30開演で……。

観劇の記録

  • タイトル:舞台「憂国のモリアーティ」
  • 日時:2020年1月16日 19時
  • 場所: EX THEATER ROPPONGI

座席位置

下手。上手・センブロ・下手を一通り経験したけど、やっぱセンブロが正義。真ん中よりちょっと後ろのセンブロが一番いい絵が見られると思う。誘拐事件の時にウィリアムが指鉄砲でマフィアを撃つ→モランの銃弾がマフィアに当たる、っていうシーン、ど真ん中で見るとちょうど立ち位置が被ってウィリアムが撃ったみたいに見えるんだよね。あれ見ちゃうとサイドでは満足できなくなる……。

雑感

13日に見てから、1幕ラストで椅子が浮く意味についていろいろと議論を交わした。意味分からん、なんで浮く?!っていう感想が多い中で出てきたのがこちら↓

hirokuhukaku.hatenablog.com

そんな深い意味があったのか……今回ちゃんと確認しなきゃな……。と思ってたんですよ。

椅子、浮かなかったです。

……え????????????????????????

正直椅子のために見に来たといっても過言ではない(そんなことはない)のに、椅子が浮かない。椅子を吊るためのワイヤー?は降りてきてたけど、何も引っ掛けないままするする~っと上がっていった。え??????? なんで??????? 上手だったらもうちょっとよく見えたかもしれないのに今日に限って下手。上手神が微笑んでくれない。

それはともかく。

本当にこう……全部が上手いことピタッとハマってる感じが心地よくて癖になる。「モリアーティ」が成立するまでのストーリーに一切のムダがない(ただし椅子は除く)。ウィリアムの計算高さを示すために男爵の事件があり、MI6成立を描くためにフリーダの事件と誘拐事件、犯罪の喧伝役としてシャーロックを描いて、クライマックスにアイリーンを配置。そして「沈黙です」で〆る。パズルのピースを1つ1つはめていって、綺麗な絵ができたところで幕っていうのが本当にいい。この絵が今後どうなっていくんだろうって気になってしまう。

それでねぇ、登場人物全員がいいんですよ。原作通りどころか原作以上にそれっぽいというか。コマとコマの間が丁寧に埋まっている。ウィリアムはもちろんなんだけど、何よりアルバートがやばい。ノーブル。アルフォート(よく頑張りましたbyウィリアム)。仕草のひとつひとつに気品があり、それでいて底の知れない腹黒さが滲み出てる。絶対に一筋縄ではいかないぞこいつ!ってすぐに分かる。アルバートを前にしたらウィリアムも純粋に見えてしまう。ルイスがウィリアムを「支配者」と言うシーンがあるけれど、どう考えてもアルバートが支配者でしょう。ウィリアムは自分のために階級社会を壊したい訳ではないから、誰かの依頼がなければ(依頼だと解釈できる文脈がなければ)動かない。最初の「罰」も「アルバート様のご依頼で」執り行う。ウィリアムの頭脳という武器をアルバートが振るってるようにしか見えない。

上2人がそんな関係だから、ルイスが疎外感を覚えてしまうのもしょうがない。よく見ると1幕の時点でちょくちょく寂しそうな顔してる。でもルイスを無垢に保ちたいウィリアムのエゴも分かるんだよな……。あんなにかわいい弟の手を汚したくないのは分かる。説得力がすごい。ほとんど表情も変わらないのに、絶対「分かる……ルイスにあんなことさせたくないよね……」って思える。持って生まれた雰囲気か何かかな。その雰囲気のまま「選んでください。……炎か、血か」って言うから無垢なものが汚された感が強くて「ああ……ルイスゥゥゥ……(顔を覆う)」ってなってしまう。見ようによっては兄弟+αの中で人殺しに一番何の感情も持っていなさそうな脆さが「守りたい」と思わせるのかな。

そんでウィリアム。全部の仕草が好きなんだが、強いて言うなら本当に冒頭のシーンで「……嫌いだ」と呟く直前の変化が好き。初めて見た時本当にぞっとした。一瞬で表情が抜け落ちて「無」になるあの瞬間。どちらかというと推しの真顔が好きだからそういう意味でも好き。というか声と表情の幅が信じられないくらいに広い……。声を聞いただけで「あ、これは幼い頃だな」って分かるの、よく考えたらすごいことだよ。笑顔のニュアンスも全然違う。歯を剥き出しにする笑顔がいい感じに気が触れてそうで好き。ダブリン男爵が発作を起こした瞬間のあの悪い顔!!!!! 下手だから存分に見てしまった。自分の思い通りに事が進んだ満足感だけでない凄みを感じる。最後の方でマイクロフトに向けてるのも悪い顔なんだよな。階級社会を壊す以外の真意がある気がしてならない。

カーテンコールで最後に出てきて頭を下げるまでの堂々とした姿もいい。支配者というか、演出家だなって思う。ロンドンを舞台とした犯罪劇を作り上げる演出家。何もかもが彼の手の中で起きているけれど、彼自身の姿は闇の中に隠れたまま。悪役なのに華がある。

深夜1時だからシャーロック側はまた今度だなぁ。本当に開演時間とロビーの狭さはどうにかならんのか。

……何もかもが彼の手の中で起きているわけだが、カーテンコールでのギャグはちゃんと最初から自己申告すべきだと思うよ推しさん。木工用ボンドってw。毎回余韻がいい感じに壊されてから六本木駅までダッシュしてる。

ほんとなんで椅子浮かなかったんだろう。