ダイマします(出落ち)
これな! 今私の中で一番ホットな漫画です。なんでかって言うともう何年も前から原作ファンなのに加えて舞台版に推しが出るからです。
結論は「今すぐイノサンを読んで」の一言なので、もうわかっとるわ!とか読んだわ!って方は大丈夫です。そのままミュージカルも見ましょう。あっでも私がチケット取れてからにして(わがままでごめん) ← (06/13) 取れました! みんなでミュージカル見ましょう!
どんな話?
18世紀末のフランス、革命時代を生きた処刑人「ムッシュー・ド・パリ」の一族(サンソン家)に焦点を合わせた伝記調の漫画です。革命時代に3000人余りの首を刎ねたとされる4代目ムッシュー・ド・パリ、シャルル-アンリ・サンソンを中心に据えて、彼とその家族に処刑されていった人たちの人生を描いていく、というストーリーです。フランス革命がベースなので歴史の授業で見たあんな人やこんな人も出てきますし、ちょっと特殊なところで言うと「サド侯爵」もちょっとだけ出てきます。ナポレオンもいます。ナポレオンがかわいい。
「伝記調」と書いた通り、この漫画にある内容は全部が全部実際に起きたことではありません。以下の書籍をベースにしつつ、作者(坂本眞一)が解釈を加えています。
死刑執行人サンソン ―国王ルイ十六世の首を刎ねた男 (集英社新書)
- 作者: 安達正勝
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2003/12/17
- メディア: 新書
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一番の違いは、シャルル-アンリの妹「マリー-ジョセフ・サンソン」のキャラクターです。史実では家系譜に名前だけある程度の存在ですが、イノサンでは「もうひとりの主人公」としてバリッバリに活躍します。シャルルとマリーの立場から見たフランス革命って感じですね。マリーがいることで、当時のフランスがどのような考えで動いていたかをより掴みやすくなっているなと思います。
現在は「イノサン」全9巻と「イノサン Rouge」1~10巻が発売中です。無印→Rouge(ルージュ)の順で読んでください。話はつながってて、無印がヤングジャンプ連載、Rougeがグランドジャンプ連載です。連載だと最終章「バラベルサイユ」の真っ只中なので結構クライマックスが近い。終わってしまう~~……。
敬遠されがちポイント
なんといってもグロい。そしてエグい。そしてエロい。
局部描写こそぼかされていますが、普通にめっちゃヤってますし、おっぱいはモロ出し(ポロリどころではない)が当たり前だし、大小問わずスカ描写もあります。そして処刑人の話なので当たり前ですが人がとても死ぬ。生首とか切断面とか臓物とか血とか多分毎話出てくる。出てこない話あったかな……。これR指定雑誌コーナーにないのおかしくね?ってレベルでいろいろ出まくってます。間違いなくR-18Gです。
てことで、グロが苦手な人は多分初っ端から読み進められません。1話から拷問されてますし。「絵は綺麗だけどちょっとグロすぎる」っていう感想も多いです。もうこれはしょうがない。でもそれを乗り越えた先に見えるものがあると思ってるので、こうやって記事を書いています。
ここが好きだよ
絵が綺麗
そう、苦手な人ですら言及するレベルで絵が綺麗。
1つ1つのコマが芸術作品かっていうくらいに緻密で完成度が高い。ヤンジャン時代はこれが毎週連載されてたんだぜ……?????? そして大ゴマの使い方がえげつない。一番最初に貼ったリンクからRougeの1話が読めるんだけど、グロ苦手でもそれだけは見てほしい。血は出てるし処刑シーンもあるけど切断面はないです! 臓物もなし!エロもなし!おっぱいはちょっとある!大丈夫モロじゃないから!胸元がっつり開いてるドレスなだけだから!
読んだ?
見開きの使い方、えげつないですよね……?
たった1話に5回(扉絵入れると6回)もの見開きコマがある。Rouge開幕+グランドジャンプ初戦だから豪華にしてるとはいえ、この紙面の贅沢な使い方よ。特に最後の見開きの「貴族は鏖だ―!!!!」とか、唇1つに見開き使ってるんですよ。初めて見た時は鳥肌立ちました。ここまで贅沢に使うかと。連載漫画って、決められたページである程度話を進めつつ読者を引き込まなきゃいけないと思うんですよね。続きが気になるって思わせなきゃいけない。だから1ページの密度は高くなりやすいのかな?って思ってて。なのにこの作品は、物語の情報量を削ってでも「見た時の衝撃」とか「美しさ」に全振りしてる。ページをめくるのが面白い漫画って初めて出会いました。美術館を歩いていて「運命の1枚」に出会った時の衝撃を毎週*1のように味わえる。
コミック雑誌っていろんな作品が載ってるし毎号掲載順が違う(そして休載もある)から、まずぱらぱら~ってめくって今回どのへんに載ってるかなって探すんですよね。その時の視線の吸引力が本当にすごい。
あと試し読みの範囲にはないんだけど、たまに「縦見開き」という変わり種が入ってくる。必殺技かっていうくらい気持ちいいところにガツンと大きな絵が来る。
もちろんこれ以降も「ここぞ」というところに大ゴマが来るので、慣れてくると「ヨッシャオラァアアアアアア!!!!」ってテンションが上がります。
直球勝負
私も、言うてエログロそんな得意じゃないんですよ。特にエロ描写。グロはゲームである程度耐性ついてるけど、エロはほんとに苦手で。
なのにこの作品にここまで入れ込んでいるのは、描写のすべてが「生」という一言に真正面からぶつかっていくからです。生きるってどういうことなんだとか、平等ってなんだとか、そういう普遍的だけどだからこそ考えてやまないテーマと真っ向から取っ組み合ってる。私にとって「イノサン」はそういう作品です。
「生」とか「平等」って、正面から描くとお説教臭くなりやすいんだなって思うことが多いです。あるいは上っ面だけの薄っぺらい話になってしまう。もちろんそうじゃない作品もたくさんあるけれど、今からじゃあ「生きる」ことについてどうやって描いていくか?って言われると結構難しい。
しかもフランス革命って、いうなればもう散々使い尽くされたネタじゃないですか。ベルばらやらレミゼやら1789やらアサクリやら、あの時代をモチーフにした作品なんて腐るほどある。ありがちなテーマに使い古された題材なんて、私だったら絶対選びません。新しいものが作れる気がしない。
この作品は、メインになる登場人物の軸をずらしただけでこんなに違う世界が見えるのか、っていう驚きをもたらしてくれました。生きている人ではなく、これから死ぬ人、そして「殺す人」から見たフランス革命。どの作品でも絶対に出てくる「ギロチン」を、ただ恐怖の対象ではなく未来への希望や願いとして描く。この視点の転回がめちゃくちゃ好きです。ただ大量に処刑するための道具ではなく、なぜ大量に処刑する必要があるのか、なぜ人員の増加では意味がないのか、そこをきちんと描くために長い長い描写がある。だからイノサンがフランス革命モチーフと聞いて「ギロチンとか処刑とか怖い」って言った人こそ読んでほしい。確かに怖いんだけど、なんで「怖くあらねばならないか」がちゃんと説明されてるから。ちなみにギロチン出てきたの割と最近(連載軸)だからね。
生きているって、本来もっとグロくてエグくてエロいもんなんですよ。そんなことないよ~って取り繕った顔してても、生皮1枚剥いだらみんなドロドロしたものを抱えている。その生々しさを真っ向から描くために、あえて真逆の「死」それも「他人による死=処刑」を描いている。そんな印象です。だからグロが中途半端ではいけない。ギリギリまで描ききったからこそ、その影によって「生きている」ということが引き立てられる。光を綺麗に描くために緻密な影を作っているところが好きです。だからこの漫画に限ってはエログロも受け入れられる。残虐にあっけなく死ぬからこそ、その命の重さが線の1つ1つから伝わってくる。
死を前にすると誰もが平等になる。だからこそ見えてくるものがあって、それを描くために必要な描写だと思っています。極限状態に置かれれば、誰だって愛とか覚悟とか恐怖とか、もう何も隠す余地ないくらいに全部丸出しで。その剥き出しの「生」そのものに向き合い続けるサンソン兄妹たちが素晴らしいなって読む度に思います。
マリー-ジョセフ・サンソン
この作品に出てくる登場人物はほとんど全員が実在してるんですが、マリーだけはほぼオリジナルキャラクターです。マリーがいることで、他のキャラクターが囚われているものがくっきり浮かび上がってくる。革命を進めようとする人たちも、価値観が(無意識のうちに)男性主体になってることを指摘されるシーンがあるから、一概に「革命=善」という構図にもなってないところが好きです。女性かつ処刑人という、この時代では一番不遇な運命に生まれながら、自分がやりたいことだけを選び取っていく、その強い姿勢が好きです。
でもマリーも時代の価値観から抜け出せきれないって分かるのが、マリーが子供を産むって決めるシーンです。結婚相手はあれこれ策を巡らせて自分が自由に動けるように結果をもぎ取ってるんですが、子供の父親は「そうなるのか」って驚きます。それでも、自分のために最善を選び続ける姿勢が一切ブレてないのがいいですね。マリーの子供が後半につれてどんどん重要なポジションになってきてるんで、あの子が今後何を選ぶかも楽しみにしてます。
奇抜な描写
突然ミュージカルが始まったり、現代的な描写に変わったり、お!って驚くシーンがところどころに挟まります。一番好きなのは、フランス王女になったマリー・アントワネットの元にたくさんの手紙が届く→マリー・アントワネットが定型文で返事を書かせる、っていうのが「Twitterのbotリプライ」で表されてるのと、フランス革命が起きてマリー・アントワネットから貴族たちが離れていくのが「LINE(風)のトークルームからの離脱」になってるやつ。どれも「あ~~~わかる~~~~」ってなる。この発想はすげぇな、って出る度にびっくりします。
フランス革命が始まってからの時系列がわざと入れ替わってるのもいいですね。印象的なシーン(ルイ16世の処刑)から始まって、時間がちょっと巻き戻ってそこまでの流れを説明する。連載時点では「あれ今何年何月だっけ?」ってなりがちでちょっと今ひとつだなって思ってたんですが、単行本になって全部一気に読むと綺麗に繋がってる。すごい。1話で二度おいしかったです。さらに時系列に並べながら読み返しても楽しいから1話で三度おいしい。
これを読んでくれ
といってももう描写レベルで無理ってのは分かる。仕方がない。ということで、本編は無理でもこれはいけるんじゃないかなぁ、っていうインタビュー記事を載せておきます。これを見て「ただのエログロじゃないんだ」って思って本編に手を付けるもよし、やっぱり無理ってなってもよし。
今回の舞台でマリー-ジョセフ・サンソンを演じる中島さんとの対談記事。
僕は、同じ人間がここまで残酷なことができるというその行為に興味がありました。善悪すらわからなくなるような感覚。人間だから道徳的な生き方ができるとかじゃなくて、こういう恐ろしい一面も兼ね備えているという奥深いところにスポットライトをあてたいと思ったんです。
今年2~4月に連載されていた作者(坂本眞一)のインタビュー。全13件。これはところどころ本編の画像あるし、がっつりグロもあるので気をつけてください。シーズン2は絵の描き方の話が多いので、作品への考え方を知りたい時は前半6つを読めば大丈夫かな。
たとえば『イノサン』は処刑人が主役の漫画ですから、悲惨な光景とかがついて回ります。だからこそ美しさを大切にして、命の尊さや儚さを表現したいと考えているんです。「美」というキーワードはこの作品では支柱のひとつです。人間の生死に関わる話を描いているので、体温だとか血が流れる鼓動とか、髪の毛1本1本まで心をこめて誠心誠意描いています。
漫画『イノサン』『イノサンRouge』『孤高の人』 著者・坂本眞一インタビュー! 第3回 ー漫画家は、作品を作るたびに輪廻転生するー | KERA STYLE [ケラ!スタイル]
ただグロいから嫌、怖い、じゃなくて、そこをどうにか乗り越えてほしいなって私は思っています。でも強制はできない。無理なものは無理だもん。どこまでもリアルだからこそ、リアルにグロいからこそ、そこにしかない輝きが描かれています。そこが大好きです。
舞台はどうなるんだろう
2019/06/11時点の出演キャスト情報で考えますね。ここから追加きたらまた変わると思う。勝手な妄想だよ。
おそらく、アラン自由学校への放火~ド・リュクセの処刑と、オリビエ・ルシャールの処刑の2つがクライマックスに関わってくるんじゃないかな~~て思います。人物のクレジット順で3番目にアランがいるのと、ジャックの位置から多分こうじゃないかなって。あとこの2つの処刑って「平等」と「自由」を象徴するように描かれてるんですよね。マリーは貴族のド・リュクセも「平等」に処刑するし、ルシャールの処刑をきっかけに第3身分(平民)たちが「自由」を求めて動き始め、マリーも触発されてサンソンから「自由」になる。
「自由」「平等」「博愛/友愛」って言ったらフランス国旗の意味でもあるので、そういった点でも取り上げやすい。
あと単純に私が好きなエピソードだからぜひやってほしい(本音)。
この話を読んどけば大丈夫だイノサン的なやつをやりたかったんですが、多分全部読んでないと分からないんですよね……。特にマリーの考え方に馴染むためには、彼女の出てくるエピソードを全部追わないといけない。ので結論は「全部」です。処刑1つとっても、なぜそれが必要なのか、なぜこういう考え方になったのか、ってのを何話もかけてじわじわと説明していくんですよね……。直接的に「X巻!」って言っても、そこを読むだけではただのグロくて残虐な話で終わっちゃうという。あと予想外れたら恥ずかしいんでとりあえず全部読んでください。
ダイマのきっかけ
もともと、私はヤンジャン時代からイノサンを雑誌で追ってます。最初は別の作品のためにヤンジャン買ってたんですけど、ある時「なんだこの綺麗な絵は?!」って気付いて。単行本で言うと無印の5巻後半~6巻頭くらいなので……(単行本の奥付を見る) 2014年ですね。……2014年?! まじか。だから無印~Rougeの切り替わりもリアルタイムでした。でも未だにグランドジャンプの発売日が覚えられない。いつも木曜日にヤンジャンと一緒に読む。
舞台化発表された時(今年2月か3月)からもうすっっっっっっごく楽しみにしてて! 推しが出る出ないに関わらず2019下半期で一番期待してるのはお前だぞ!って思ってたら、まさかの推し出演。いやぁ嬉しさが倍増どころか階乗で増えていきますよ。
私はそんなに2次元を嗜む方ではないっぽいので、推しが出るから原作に触れる→好きな作品が増える、ってパターンが多いんですよね。そんな中で、自分がずっと前から読んでて溺愛してる漫画の舞台に推しが出る!!!!っていう多幸感にテンションがぶち上がっています。推しさんを追い始めて3年目なんですが、多分これが初めてです。刀ステは追い始める前の出来事だったのでノーカン。ああ、こんなに嬉しいものなんですねぇ。単行本読み返すってあんまりやらない(体力持ってかれる)んですが、決まった直後の週末はがーーーーーっと読み返してストーリー予想したりしました。
でもまぁ、先日のニコ生で「グロくて無理……」ってコメントが結構ありまして。でしょうね!って思うのと同時に、せっかくだし読み進められる人が少しでも増えたらいいな、っていうきっかけで記事を書きました。
どうですかね……? 伝わりますかね? ダイマって難しいですよね。ただグロいだけじゃない!ってのがちょっとでも分かってもらえると嬉しいです。死という影をみっちり描くことで、生という光を浮き立たせるこの漫画が大好きです。ただちょっと見て「グロ……」って敬遠せず、ほんの少しでも読み進めてくれたら私はHAPPYです!
ミュージカルもすっっっっっっっごく楽しみ! 推しさんもボイトレ通ってるみたいなんでどんな歌声が聞けるのか今からわくわくしてます。大きな作品だから、これを機に原作も読んでくれると嬉しい!です!イノサンはいいぞ!