行く末トーキー

はじめからはじめよ

声が乗るということ―映画『ひだまりが聴こえる』

東京喰種の2回目に行った後に本屋に立ち寄って、映画化されてたことを知ったので見に行った。

鑑賞の記録

  • タイトル:ひだまりが聴こえる
  • 日付:2017年7月2日
  • 場所:池袋HUMAXシネマズ

読む前の諸注意

  • この映画の原作はBL漫画です。

言ってもそんなにキツい描写はないリリカルな感じだけど。そういう話はほんのちょっぴりでも絶対ムリーーーーーーー!って方・2次元はいいけど3次元のそういうのはダメだーーーーーーーーー!って方はこの先に進まず戻ってください。

  • 個人的な事情が多分に含まれます。

このブログを書き始めるの当たって、「嘘だけは書くまい」と決めてその信念を守り続けてるので、今回はわりと私情…というか私個人の事情が出てきます。色は薄くしておくので読み飛ばしてください。

公式サイト

hidamari-kikoeru.com

最近流行り?の訪問した瞬間Youtubeで予告編が流れるやつ*1スマホ対応が微妙にされてないのでPC推奨です。

あと本編冒頭がナタリーのチャンネルに上がってた。

www.youtube.com

多和田秀弥という名前をどこかで見た気がする…なんだっけな…と思ったらテニミュ2ndシーズンで手塚役の人だった。この人めっちゃイケメンだね? あと和田琢磨さんに似てる気がする。同じ手塚役だったからかな。

原作について

私はもとから次元を問わず同性愛とかそういったものを気にしない質だ。誰かが誰かを想うってのはそれだけですごいなぁと思いながら見ている。同性愛になると世間体とかそういうのが複雑に絡んできて、ただでさえ想い続けるのは難しいというのにさらにハードルが上がる。それでも、という感情が出てくる作品を選んで読んでいる。

で、この作品がすごいなぁと思ったのは、世の中ではマイナな同性愛に加えて「聞こえない」ということを正面から扱った作品だからだ。マイナな中でもさらにマイナで、でも実際にありうる世界を描いているところが好きだ。特殊な設定なんてどこにもなくて、ただ普通に生きている人たちを描いているところが好きで、何度も読み返している。

感想

舞台に比べると安価だから、なんとなく縁を感じて見に行った、程度だったけれど、見てよかったなぁと思った。演じるってこういうことなのかな、と最近考えていたことの断片がまとまった感じがする。

ただ、一部も演出にものすごく恐怖心を覚えた。時々挟まる「航平が感じている世界」の描写だ。雑音が混ざったり、距離感が狂ったり、輪郭がにじんでしまったり、ものすごく丁寧に描かれた航平の世界が心底恐ろしかった。というのも、私も「難聴者」にカテゴライズされる存在だからだ。航平ほどではないけれど、生まれつき聞いたことがない音と、聞いたことがあるはずなのに今では思い出せない音がある。10年か20年後にはゼロになるだろうとも言われている。段々すり減っていくようにゼロに向かうのか、ある時突然ゼロに近づくかは誰もわからない。体調によっても波がある。これが原因であきらめざるをえなかったことはいくつかあるし、生活に苦労するところはある。だから、予告なしに「聞こえない」世界を描かれると、もしかして…となってしまう。演出だと気づいてからは慣れたけれど、最初のときは若干パニックになりかけた。映画館が空いていてよかった。体調が悪い時は本当にあのレベルだから下手な恐怖映像よりよっぽど怖かった。

聴こえる人が聴こえない人を演じるというのは難しいことなのだろう。作中でも「人によって差がある」と説明されているように、聴こえ方は千差万別だ。聞くことはどうにかできるが声量の調節が難しい*2人もいるし。そんな中で、航平は「航平の感じる世界」を生きていた。近しい人や聞き取りやすい声の人*3と話すときは目をそらしてる=口元を見てないときがあるんだけれど、そうでない人に対してはじっと見つめている。あと、背を向けていて太一の声が届いていないときとか。教室で教授の声がうまく聞き取れなくて、周りを見渡してメモってる人が多いのを知る→メモすべきところだと判断する、という仕草とか*4

耳鳴りに襲われながら「太一の声が聴こえなくなったらどうしよう」と恐れるときの目の泳がせ方がめちゃくちゃ…うーん…ずしっと来るというか…本能でそれを恐れているのが見える表情で、想像だけでこの表情ができることに驚いた。予告編39秒あたりかな。航平は突発性難聴だから誰にでも起こりうることなんだけど、「全部聞こえてたところから大半がなくなる」のと「わずかに残っていたはずなのに消えていく」のとでは全然違う。航平の恐れは後者のそれだから、その部分がきちんと描かれていたのはうれしかった。

太一もよかったなぁ…。「聴こえないならちゃんとそう言えよ。聞こえないのはお前のせいじゃないだろ」は原作ですごく好きな台詞だ。それが、動きや声に乗って、まっすぐに航平に届けられる様子は本当にまっすぐ心に届いた。声が乗るってすごいな、生身の人間が発する言葉に乗る力ってこんなにあるんだ、とちょっと泣きそうになった。太一が考えるほど単純ってわけではないんだけれど、難しく考えすぎなのかもなって思える力があった。

やっぱりまだ覚えていたいなぁ

もう一度見に行きたいけどちょっと時間が合わないんだよなぁ…円盤出るのは厳しいかな…

本屋でたまたま見かけた縁だったけれど、見てよかったです。抵抗ない方はぜひ。

*1:閉じるの面倒だしあんまり好きじゃないスタイル

*2:こそこそ話をしようにも自分の声が聞き取れない=ちゃんと話せているかわからなくて声が大きくなる

*3:声量に限らず波長が合うというか、可聴域のストライクゾーンを狙い撃ちしてくる声が存在する人は多い

*4:あーーーーーあるあるーーーーーーってなった。周りの反応からあっ今大事な話だったんだな!って気づくのすごく多い。あと固有名詞は隣のノートこっそり見て文字で覚えたりする